職人の世界に入った時に驚いて、かつ思い出したことがあって、今日はそれを書いてみたい。
国民的マンガ(とアニメ)として挙げられるドラゴンボールは、もはや知らない人はいないだろうと思う。
現在、ドラゴンボールはZや改を経て「ドラゴンボール超」になっているが、いま語りたいのは初期のドラゴンボール。
悟空がクリリンと共に亀仙人に弟子入りした時の事。
亀仙人の指導の元、悟空とクリリンは素手で畑を耕したり、亀の甲羅を背負って牛乳配達したりする。
それらの修行が結局、彼らの能力を超人的なものにする。
いつの間にやら能力向上
これらの修行の効能を知らされないまま、修行に励んだ結果、超人的な能力を発揮できるようになる。
これに本人達も読者も驚くんだけれども、実は、これと同じような驚きが大工の世界にもある。
つまり、○○をやっていたら△△の能力が身についているということがあったということに驚いたので、ここに書いておきたい。
それは、「砥ぎもの(とぎもの)」だ。
実は、鑿(ノミ)や鉋(カンナ)を一人前に砥げるようになれば、大工として一番大事な技能が身につくのだ。
もちろん、大工は技能だけでなく、知識も必要だから、そこは勉強や経験が必要だが、一番大事な技能だけはノミ砥ぎだけで身につくのだ。
一番大事な技能、具体的に言うなら「力加減(力の入れ方)」と「呼吸」が身につく。
これが身についていないと、まともな仕事ができない。
実際にノミを砥げるようになって、色んな仕事ができるようになった。
この力加減と呼吸を合わせたものは「拳児」でいうところの聴勁に近いものだと思われ、力の入れ方や角度が自然とわかる。
もっといえば、建材や木が体の一部になるような感覚ができて、職人モードに移行するのだ。
砥ぎものができりゃ一人前(いちにんまえ)だ
もう少し具体的に説明がなされていればとも思うんだけど、「砥ぎものできりゃ一人前だ」の一言に色々集約されていて、職人の世界のハードボイルドさが伺える。
必要最小限の精神的ミニマリスト。いや、必要最小限にも達してないな。
砥いだ刃先を見せてもMUGONだ。ん、漢っぽい。
こうなってくると、ささやかな作業にも何かしら意味があるんじゃねぇのかと本気で臨んじゃう。これが狙いか?
そういえば映画「ベストキッド」で主人公が車のワックスがけをやらされて、それが結局防御の修行になってたという展開があったが、あんな感じ。
なんじゃこら?ポカーンとするダニエルさん
ミヤギさん、あんたがやれよ、みたいな。
「ワックスかける、ワックスとる」ワックスがけ、それは防御の修行なのだ!
これのおかげでワックスがけの時はつぶやいちゃう。
「ワックスかける ワックスとる
鼻から息をすって 口からはく
呼吸が大切だ!
ワックスかける ワックスとる」
こんなんマンガやアニメ、映画の中の話だけと思いきや、大工の世界にはありましたよ、こんなの。
というか僕が知らないだけで、職人の世界には普通にあるのかも、知らない間に能力超アップ。
そういやハンターハンターの試しの門もそうだよなぁ。
ワシ、この何十年かで、いっぺんしか満足に砥げたことない
砥ぎもの関連で面白い話があって、ちょいミステリアスなんだけども。
ノミでも鉋でも、生涯最高の砥ぎあがりができるのはペーペー時代のことが多い、とよく聞く。
入ったばかりの新人に、砥ぎものを任せる、そうすると驚きの砥ぎあがりを見せる。
驚く周りの職人さんたち。
でもこれは技術的に幼い時に、一度だけの邂逅(の場合が多い)。トトロ的な。
次の日、もう一度やってみると、同じことがもうできない。
自分自身が昨日、驚くほどの出来で砥いだので、今日の砥ぎあがりがダメだということが良く分かる。
あれ?あれ?
そう思いながら昨日の理想の砥ぎあがりを追いかける日々が始まる。
「ワシ、この何十年かで、いっぺんしか満足に砥げたことないねん…」
そう寂しそうに笑うおっちゃん。
考えてみるに、砥ぎものは大工の技術を矯正するものなんだろうね。
今までの人生で身についた色んなクセや歪み、そんなんを矯正するものなのかもと思い始めてる。
技術的なことだけじゃない、心が荒れていたり考え事をしているとそれが刃先に出る。
無心、そんなものも求められている気がする。でもできない。
これができれば一人前、この言葉が本当に重い。槃特みたいもんかな。
ちなみに砥いだノミや鉋の刃先を見ると、その人の熟練度がわかるおおまかなバロメーターにもなる。
ので、僕は人に刃先を見せない。
まとめ
こんなマンガみたいな、○○の修行をしたら△△の能力が著しく上がる、みたいなことは、実際に体験すると衝撃だった。
そのことについて何も修行してないのに、できるようになってる!!
たぶん他にもあるんだろうね。
他の業界の事例も知りたいな-と思いました。